世の中は皮肉な構造なのかもしれない。抗生物質の開発と抗生物質の耐性菌との関係を見るたびにそう思う。以前に講師を務めていたときには、バンコマイシン耐性菌が問題になっていたためにテーマとして取り上げたが、新しい抗生物質が開発されれば、必ずそれに対する耐性菌が現れると言っても過言ではないだろう。
まず、抗生物質という言葉だが、これはバクテリア(細菌)の細胞壁の合成を阻害する物質だ。最初に発見された抗生物質はペニシリンと呼ばれるものだ。ペニシリンはアオカビから発見された。細菌を培養している培地にアオカビを植えると、アオカビの周りで細菌の増殖が抑制される。その原因物質を調べたところ、ペニシリンという物質が見つかったのである。
ペニシリンの発見によって、バクテリアによる病気はなくなるだろうといわれた。ところが、耐性菌というものが現れたのである。ペニシリンに耐性を持つバクテリアの出現だ。
耐性菌の出現のメカニズムはきわめて簡単だ。耐性菌の出現については、(1)増殖速度が速いこと、(2)突然変異がおきやすいこと、この二つが必要であると考えられる。この二つの条件を満たすには、生物体としての構造が簡単であることが必要なのだろう。
とにかく、この二つの条件がそろえば、耐性菌は容易に出現する。
まず、ペニシリンを使うことによって、耐性を持たない菌は死滅する。おそらく、これが続けば医学的な成果はしばらく上げられるのだろう。
しかしながら、非常に低い確率で耐性菌が出現する。突然変異というメカニズムによって、耐性菌は常に出現する可能性があるし、ペニシリンが存在しようがしよまいが、耐性菌は突然変異によって現れるといわれている。
もしもペニシリンというものが存在しないとしよう。ある時点で突然変異によってペニシリンに耐性を持つバクテリアが出現したとする。しかし、突然変異によって生じた遺伝子の割合は非常に小さく、何らかの負荷がかからない状態では遺伝子の割合は普遍で、たった1回の突然変異によって生じた耐性の遺伝子はすぐに消えてなくなってしまう。
ところが、ペニシリンの存在によって、偶然に生じたペニシリン耐性の遺伝子は大増殖する。ペニシリンが存在すると、ペニシリンに耐性を持たないバクテリアはすべて死滅することになる。偶然に生じたペニシリン耐性菌は生き残るわけであるが、結果としてバクテリアの100%を耐性菌が閉めることになる。この集団では100%が耐性を持つ。増殖速度が速ければ、すぐにもとの個体数に戻るだろう。
実際のところ、大腸菌などは、理想的な条件においてやると、20分もあれば2倍になるという。40分で4倍、80分で8倍、160分で16倍…、と指数関数的に増えていくのだから、たとえ耐性を持つ菌がたった一個体だったとしても、すぐにもとの個体数にまで戻るだろう。
ペニシリンが存在しなければペニシリンに耐性を持つバクテリアは出現しないか、または出現してもすぐに消滅するのだが、ペニシリンが存在することによってペニシリンに耐性を持つバクテリアが大増殖するという皮肉な結果になってしまうのだ。
円高に耐性を持つ企業が増えてきたという記事とこの記事がリンクしてこんなことを思った。
円高対策のできない企業がまだまだ日本には多い。配当はドルで支払うことにして、円高対策は株主が勝手にやってくれというのならそれでもかまわないが、日本の株主はそれほどグローバル意識は高くないだろう。
円高に耐性を持つ企業を増やしたいのなら、円高に耐性を持たない企業を淘汰してしまうべきだろう。そうすれば100%の企業が円高に耐性を持つようになり、株式投資をするさいに、いちいち為替を気にする必要はなくなるので、非常にありがたい。そのためには為替介入などという税金の無駄遣いをやめるべきだ。
こんなふうに思うのは、ドル円を売っている私の潜在的なポジショントークかもしれないが。
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